2020.01.14
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現行マーベルユニバースへの転換点!

『シークレット・ウォーズ』

シークレット・ウォーズ(2019.8.30発売)

 [ライター] ジョナサン・ヒックマン
 [アーティスト] イサド・リビック
 [訳者] 秋友克也
 [レーベル] MARVEL
 本体3,600円+税/B5/320P
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マーベルユニバースとアルティメットユニバースの衝突、そして新たなる世界へ!

マーベル・ユニバースを大きく揺るがす『インフィニティ』、『タイム・ランズ・アウト』という二つの大きなクロスオーバーイベントを経て、その締めくくりを担う作品として刊行されたのが本作『シークレット・ウォーズ』。
二つのクロスオーバーを通し、多元宇宙「マルチバース」の埒外に存在する「ビヨンダーズ」によって、マーベル・ユニバースは、マルチバースに存在する並行世界同士が衝突する「インカージョン」が引き起こされていることが明らかとなりました。これまでヒーローたちは、自分たちの住む世界が消滅するという最悪の状況を避けるべく、さまざまな手を尽くしましたが、それでもなおインカージョンの脅威を止めることはできず、いくつもの並行世界が衝突し、消滅していきました。
最後に残った世界は、マーベルユニバースにおけるメインユニバース「アース-616」とアルティメットユニバースと呼ばれていた「アース-1610」の二つ。そして、ついに発生する最後のインカージョンでの生き残りをかけて、二つの並行宇宙のヒーローたちの戦いが始まろうかというタイミングで、前作『タイム・ランズ・アウト』は幕を閉じました。
『シークレット・ウォーズ』は、この二つの世界のヒーローたちの激突から幕を開けます。
それぞれの世界の人々を守るため、似て異なる二つの世界のヒーローたちは戦闘を繰り広げますが、しかしその戦いはインカージョン後に起こる事象のプロローグに過ぎませんでした。
そんな中、「アース-616」のMr.ファンタスティック(リード・リチャーズ)は世界の崩壊を乗り越えることができる救命艇に選ばれた人間たちを乗せて、崩壊後の状況に備えようとしていました。一方、「アース-616」から放逐されたカバルのメンバーと手を組んだ「アース-1610」のメイカーと呼ばれる若きリード・リチャーズも、マキシマスがMr.ファンタスティックから盗んだ設計図を元に作った救命艇に乗り込み、世界崩壊を乗り越えようとしていました。
そして、ついに最後のインカージョンが発生。
衝突した二つの地球のうち、どちらか一方が生き残るとされていましたが、二つの地球は消え、まったく新たな世界が誕生します。
その新たな世界は他でもない、『タイム・ランズ・アウト』の間、ビヨンダーズを倒さんと独自に行動していたDr.ドゥームが崩壊する世界を救うため、創造神となって創り出した「バトルワールド」と呼ばれる場所でした。
そこは、かつての世界の面影をどこかに残しつつも、異なる様相を持ついくつもの地域で構成されたつぎはぎの世界。
ドゥームは、インビジブル・ウーマン=スー・リチャーズを妻に、ドクター・ストレンジを側近に迎え、かつてのマルチバースの記憶を失くしたヒーローやヴィランたちを、新たな秩序で治めていたのでした。
ですがそのバトルワールドに、時間差で2台の救命艇が到着します。Dr.ストレンジと接触し、ここがドゥームの作りだした偽りの世界であることを知ったMr.ファンタスティックは、世界を元に戻すための行動を開始するのでした……。

マーベルユニバースの一大転換点であり礎石となる作品

『シークレット・ウォーズ』は、1984年に展開された大型クロスオーバーと同じタイトル名です。1984年版の『シークレット・ウォーズ』は、宇宙的な存在であるビヨンダーが、地球のスーパーヒーローとスーパーヴィランを、自分たちが創造した惑星である「バトルワールド」へ強制転送し、敵を倒せばその願いを叶わせるという誘いによって、戦わせようとするというエピソードでした。
『インフィニティ』、『タイム・ランズ・アウト』を合わせ、3年にも及ぶ長大なストーリーでマーベル・ユニバースの変化する世界情勢を紡いできたメインライターのジョナサン・ヒックマンは、その締めくくりに、往年のマーベル・コミックスファンが反応せずにはいられない『シークレット・ウォーズ』のタイトルを持ってきました。このタイトルを付けることによって、長きに渡って描かれてきたマルチバースを巡る物語は、より忘れがたい大きなインパクトを付け加えられたと言えるでしょう。
本作は、ビヨンダーズ、バトルワールド、そしてDr.ドゥームが神に近い力を手に入れるという84年のオリジナル版に登場する要素を残しつつも、イフ・ワールドものとしての意味も持っています。これまで、『エイジ・オブ・アポカリプス』や『ハウス・オブ・M』などでも、“if”の世界が描かれてきましたが、本作はそれらとは視点が異なっていることが特徴だとも言えます。これまでのイフ・ワールドものは「善と悪」や「差別する側とされる側」の立場が逆転するという形で描かれていました。本作ではそうした単純な逆転構造ではなく、ヒーロー/ヴィランという立ち位置も関係なく混沌とした世界となっており、まさにヴィランでありながら世界を救わんとするヒーロー的精神をも持ち合わせるDr.ドゥームが創造神であればこその世界観がポイントとなっていると言えるでしょう。
そして、その世界の改変のカギを握ることになるのは、永遠のライバル関係にあるDr.ドゥームとリード・リチャーズです。
現在のマーベルコミックス隆盛の原点として語られる作品と言えば、1961年にスタン・リーとジャック・カービーによって生み出された『ファンタスティック・フォー』。マーベルユニバースがマルチバースから一つの世界へと生まれ変わるという状況において、そのイベントを象徴する存在として、ユニバースの原点となるライバル関係のMr.ファンタスティックとライバルのDr.ドゥームが配置されるのもまた、ヒックマンの絶妙な采配と言えるでしょう。
宿命の二人にはどんな決着が待ち受けるのか? そして、崩壊したマーベルユニバースにはどんな未来が訪れるのか? 間違いなくコミック史に残ることになる、マーベルユニバースの新たな展開の原点となる戦いを、ぜひ目撃してください。

文・石井誠(ライター)