2017.07.21
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  • コラム

サイクロップスとウルヴァリンの決別

『X-MEN:スキズム』

今回は、通販限定「マーベル・マスト・リード」の、X-MENシリーズにとっては大きな分岐点になる『X-MEN:スキズム』を紹介します。

X-MEN:スキズム(2017.05.15発売)

[ライター] ジェイソン・アーロン キーロン・ギレン
[アーティスト] カルロス・パチェコ フランク・チョー ダニエル・アクーナ アラン・デイビス アダム・キューバート ビリー・タン
[訳者] 御代しおり
[レーベル] MARVEL
本体3,000円+税/B5/P176
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その前に、これまでヴィレッジブックスで邦訳されてきた『X-MEN』関連作品の流れを大まかに振り返ってみましょう。
X-MENのコミックシリーズは、ニューアベンジャーズシリーズとの一大クロスオーバー『X-MEN/アベンジャーズ:ハウス・オブ・M』を大きな転換点とし、ニューアベンジャーズ側を中心とした『シビル・ウォー』『シークレット・インベージョン』などのイベントの裏で、別ラインの物語が進んできました。

ハウス・オブ・MからAVXに至る道

マーベルユニバース全体に大きな影響を及ぼした『X-MEN/アベンジャーズ:ハウス・オブ・M』では、スカーレット・ウィッチの現実改変能力によって、全世界に百万人以上存在したはずのミュータントのほぼすべてがミュータント遺伝子を失い、ミュータント種は、絶滅の危機に陥ってしまいました(この事件は以降「M-デイ」と呼ばれます)。
総数わずか181人となったミュータントの未来を模索するX-MENでしたが、『X-MEN:メサイア・コンプレックス』において、「M-デイ」以降初のミュータント遺伝子を持った赤ん坊が誕生。ミュータントの救世主と目される彼女を巡って、X-MENと反ミュータント勢力の間で争奪戦が展開します。この争奪戦から赤ん坊を守ったのは、はるか未来で成長したサイクロップスの息子、ケーブルでした。サイクロップスはプロフェッサーXの仲介もあり、ケーブルと和解し、彼に赤ん坊を託します。

ケーブルは赤ん坊を安全な未来世界で育てあげることを決意。しかしミュータントの救世主を狙う者たちの魔手によって一時の平穏は破られ、ケーブルと、ホープと名づけられたその子供は逃走と戦いの日々に身を投じることとなります。
彼らの危機を知ったサイクロップスの手によって送り込まれたウルヴァリンたちX-フォースの面々が、未来世界で繰り広げた戦いは『X-フォース/ケーブル:メサイア・ウォー』で詳しく描かれています(ヒーリングファクターの力によってほぼ不老不死となったデッドプールも大活躍します)。
時系列では『シークレット・インベージョン』後にあたる『アベンジャーズ/X-MEN:ユートピア』においては、X-MENは、ミュータント排斥運動家たちと、それを後押しするノーマン・オズボーン率いるダークアベンジャーズと戦うことになります。
この後、ミュータントたちはサンフランシスコ湾に浮かぶ人工島ユートピアに拠点を移し、人類への不干渉を宣言。自由を獲得すると共に、迫害されるミュータントの保護を活動の主目的としていきます。
そして『シージ』の後にあたる『X-MEN:セカンド・カミング』において、未来世界を旅し16歳に成長したホープがケーブルと共に現代へ帰還。ミュータント根絶を使命とするバスチオンとの激闘の末、ホープの力が覚醒、それによって新たなミュータントが生まれ始めます。
この時覚醒したホープの力こそ、かつてジーン・グレイを憑代として世界を滅ぼしかけた、フェニックス・フォースでした。やがてホープのもとへ到来するであろうフェニックス・フォースを危険視するアベンジャーズは、彼女の保護拘束をX-MENに提案。しかし彼らはこれを拒否し、その結果起きた両派の戦いを描いたのが『AVX:アベンジャーズ VS X‐MEN』です。この戦いの後、フェニックス・フォースの力によって世界中で急激にミュータントが増え、ミュータントは種としての滅びを回避したのですが、その代償は非常に大きなものでした。
ミュータントと人類の融和の道は果てしなく険しい…そう考えながらも希望を捨てないX-MENの戦いは、『アンキャニィX-MEN:レボリューション』へと続いていきます。

さて、本作『X-MEN:スキズム』は、時系列的には『X-MEN:セカンド・カミング』と『AVX:アベンジャーズ VS X‐MEN』の間に入るエピソードです。
邦訳は『AVX:アベンジャーズ VS X‐MEN』の方が先に刊行されたため、先に『AVX』を読んだ方の中には、他のミュータントと別れて「ジーン・グレイ学園」の校長となり、アベンジャーズ側についていたウルヴァリンを見て疑問に思っていた方も多かったかもしれません。
本作のサブタイトルとなっている「スキズム(SCHISM)」は「分裂」という意味。時に反目しながらもずっと助け合ってきたX-MENのリーダーであるサイクロップスと、チームの精神的主柱であるウルヴァリンの、決定的な分裂を描いたのが本作なのです。

新たな脅威が迫る中、サイクロップスとウルヴァリンが選んだ結論は……

『X-MEN:セカンド・カミング』の終盤で覚醒したホープの能力。それに触発されて生まれた5人のミュータント「ライツ」をユートピアに迎えたX-MENは、彼らを始めとした若きミュータントたちの育成を行いつつ、束の間の平和なひと時を過ごしていました。
しかしスイスの国際軍縮会議に突如現れたキッド・オメガの精神波テロによって、ミュータントの危険性を認識した各国は、ミュータントの排斥を訴えます。しかし各国が起動させたセンチネルは、旧型で故障している機体が多く、暴走を開始。人類を守るため事態の収拾に動くX-MENでしたが……。同時に博物館の記念式典に参加したエマ・フロストやマグニートーら主力メンバーは、急襲してきた新生ヘルファイヤークラブに倒されてしまいます。この緊急事態にサイクロップスは、式典会場にいる「ライツ」の一人、オーヤに、敵と戦い人質を救出するよう促します。

X-MENシリーズの大きな転換点となるエピソード

『AVX:アベンジャーズ VS X‐MEN』を読んだ方ならご存知の通り、サイクロップスとウルヴァリンは袂を分けてしまいますが、そのきっかけがこのサイクロップスの行動でした。
自らの感情よりも、ミュータント種の存続を最優先とし、ひとりでも多くの子供たちに生き延びる術を教えたいと思うサイクロップス。対して、不死身の自分が常に戦うことで、子供たちには平和な暮らしをさせたいと願うウルヴァリン。
現実対理想。急進派対穏健派。そんな簡単な対立軸でとらえてしまうにはあまりに複雑で、どちらの道が本当に正しいかは誰にもわかりません。他のミュータントたちもまた、サイクロップスとユートピアに残る者、ウルヴァリンと共に去る者と、それぞれの道を選ぶことになります。
「分裂(スキズム)」とは、個人の関係が壊れるときではなく、宗教や組織が分かれていく時に使われる言葉です。これまで一枚岩であったはずのX-MENが、袂を分かつことになるのです。ここで描かれた分裂は『AVX:アベンジャーズ VS X‐MEN』以降も、X-MEN、そしてマーベルユニバースに大きな影響を与えていくことになります。
特に『マーベルNOW!』以降、『アンキャニィX-MEN:レボリューション』で革命家として立ち上がったサイクロップスの行動理念の原点となっているのは、本作で描かれた彼の心情と選択であることは間違いないでしょう。
まさにX-MENファンならばマストリードな作品です。

文・石井誠(ライター)