2017.10.17
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「フツー」って何? 固定観念に斬りこんだ話題の新世代ヒーロー!

『Ms.マーベル:もうフツーじゃないの』

『アベンジャーズ』をはじめとする実写化映画のヒットによって、日本でもマーベルコミックスの知名度は大幅にアップしました。今をときめく俳優たちが各ヒーローを演じることもあり、特に女性のファンは十年以上前と比べて爆発的に増えました。
近年では雑貨やファッションアイテムも数多くリリースされるようになり、「MARVEL」のロゴが入ったグッズを身につけた女性を見かけることも多くなりました。
そんなふうに、女性からも多くの支持を集めるようになったマーベルコミックスですが、コミックの中の世界でも女性キャラクターが大活躍中。そこでヴィレッジブックスから、今、大きな注目を集める新世代マーベルヒロインが活躍する作品の3ヶ月連続リリースがスタートしました。
その第1弾となるのが今回紹介する『Ms.マーベル:もうフツーじゃないの』です。

Ms.マーベル:もうフツーじゃないの(2017.09.29発売)

[ライター] G・ウィロー・ウィルソン
[アーティスト] エイドリアン・アルフォナ
[訳者] 秋友克也
[レーベル] MARVEL
本体2,200円+税/B5/120P
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マーベル初のムスリム出身ヒーロー誕生!

「Ms.マーベル」は元々、『シビル・ウォー』などでも活躍してきたキャロル・ダンバースのヒーローネームでした。しかしキャロルは、『キャプテン・マーベル』Vol.7 (2012年)で、かつての恋人であり、戦死したキャプテン・マーベル(マァ=ベル)の遺志を継ぐため、彼の名を継ぐことを決意。新たな「キャプテン・マーベル」となったのです。そういった経緯で、「Ms.マーベル」を名乗るヒーローは不在となっていました。そして今、空位となっていたその名を継ぐ新たな女性ヒーローが誕生することになるのです。
 新たに「Ms.マーベル」と名乗ったのは、16歳の女子高校生、カマラ・カーン。彼女は、ニューヨークの隣にあるニュージャージー州に住む、世間一般からすれば“普通”の女の子……ですが、彼女が新たなヒーローとなることは、マーベルコミックスの歴史においては“普通”ではありませんでした。その最大の理由は、彼女がマーベルコミックス史上初のムスリム(イスラム教徒)のヒーローだからです。

 多民族国家であるアメリカにおいては、異なる宗教・宗派を信仰する家庭の子供たちが同じ高校に通っています。かつてのアメリカでは、白人キリスト教徒がマジョリティであり、それ以外はマイノリティでしたが、現在ではその比率は大きく変わってきています。イスラム教、仏教、そのほかの宗教を信仰する人や、無宗教の人が増加し、白人キリスト教徒は減少の一途にあるとの調査結果も上がってきているようです。
 そうした現代アメリカ社会において“普通”の概念は前世紀と比べ大きく変化しました。誰かの“普通”は、そのすぐ隣にいる人にとっては“普通”ではないかもしれない。本書サブタイトルの原題「NO NORMAL」は、そういった固定観念への異議申し立てであるとも読めます。本作の主人公、カマラ・カーンは、この多様性の時代を、等身大で表現した新世代のヒーローとして、社会的に大きな注目を集めることになったのです。

アベンジャーズオタクの女の子が手に入れたのは「何にでもなれる」スーパーパワー!

 パキスタンからの移民でムスリムの両親のもとに生まれたカマラ。ニュージャージーの高校に通う彼女は、スーパーヒーローが大好きなオタクで、趣味は「アベンジャーズ」の冒険を題材にしたファンフィクション(二次創作小説)の執筆。両親の教え通り、イスラム教の戒律に従いながら送る生活を窮屈に感じながらも、同じくムスリムの友人たちとそれなりに楽しく過ごしていました。

 そんなある日、同級生のゾーイから河原で行われるパーティーに参加しないかと誘われます。当然ながら両親は、酔っぱらった男女が交遊するパーティーへの参加には反対。両親への反抗心から、カマラは家を抜け出してパーティーへ行きますが、ゾーイたちにバカにされ、苛立ちから会場を離れようとします。しかしその時、対岸のマンハッタンから謎の霧が流れ込んできました。カマラはその霧の中で気を失ってしまいます。そして目が覚めたカマラは、憧れのMs.マーベルの姿に変身している自分に気づくのでした……。

現代のピーター・パーカーが象徴する「普通」とは

 作中、明確には描かれていませんが、カマラにスーパーパワーを与えたのは、超人類インヒューマンズが発生させた「テリジェン・ミスト」です(詳しい経緯は『インフィニティ Ⅱ』参照)。「テリジェン・ミスト」は、インヒューマンの遺伝子を持ち、その力を発現していない人間を覚醒させる力があり、カマラはその影響で身体の大きさや外観を自由に変化させる能力に目覚めたのでした。
 ごく普通のオタク高校生が、ある日突然スーパーパワーを身につけ、ヒーローとして活動し始める……このストーリーラインは、「元祖・等身大ヒーロー」であるスパイダーマン(=ピーター・パーカー)そのもの。本作の発表当初から多くの人達がそう言っていることからも、カマラは現代版ピーター・パーカーと言って間違いないでしょう。
『アメイジング・スパイダーマン』がスタートした1962年当時は、東西冷戦の真っ最中。61年に組閣されたケネディ政権によってベトナム戦争への派兵拡大が進み、やがて活発化する反戦運動や公民権運動の前夜にあたる時期です。
 若者たちが自らの意志によって行動するという、エネルギッシュな一面を見せ始めた社会情勢の中発表された『アメイジング・スパイダーマン』の主人公、ピーター・パーカーは「クラスによくいる普通の高校生」という設定でした。ピーターは、スクールカースト上位のジョックス(体育会系男子)にいじめられ、女子生徒からは疎まれるナード(ガリ勉オタク)として描かれています。多くの人が行動に出ている中、それでも自分はやはり特別な存在にはなれない……そんな多くの人が抱える「みじめさ」を体現した彼は、読者が感情移入できるキャラクターでした。そしてそんな彼がヒーローとして活躍するというカタルシスが、大きく支持されたのです。
 しかし、時代が移れば“普通”の概念も大きく変化します。新しい『Ms.マーベル』がスタートしたのは2014年。現代のアメリカ社会が、かつてないほど多民族・多宗教になった結果、生活様式や文化の違いはより鮮明になりました。作中で白人のゾーイが、カマラたちの生活や文化をたびたびネタにするように、社会において、こうした異文化の存在が隣にいることが普通のことになったと言えるでしょう。
 またそれ以外にも、本作のカマラが象徴する「何者かにならなければ」という焦燥感も、若者にとっては普通のことです。キャロル・ダンバースのような金髪でスタイル抜群の美女でなければ人々に求められるヒーローらしくないと考えるカマラは、女性読者にも共感できるキャラクターではないでしょうか。

 アメリカ生まれのムスリムである女性編集者サナ・アマーナトが、自身のこれまでの体験を同僚に語ったことがきっかけとなって本書は誕生しました。その想いを物語にしたのは、同じく女性でありムスリムであるファンタジー小説家、グウェンドリン・ウィロー・ウィルソン。彼女たちによって生み出されたカマラ・カーンは、等身大の存在であると同時に、大きな希望を託されたキャラクターでもあることが、作品を通じて伝わってきます。

 カマラ・カーンに与えられたスーパーパワーは、姿形を自由自在に変えられる変身・変形能力。一旦はキャロル・ダンバースの姿でヒーロー活動を行おうとしたカマラは、最終的に自分の素の姿+マスクというスタイルを選びます。
 金髪美女じゃなくても、志があり、自分自身を信じられればヒーローになれる……そんなカマラの姿は、ありとあらゆる“普通”の人々を勇気づけることでしょう。

 アメコミファンはもちろん、普段アメコミを読まない方にもオススメできる、この記念すべき「フツーじゃない」新世代ヒーローの誕生を見届けてください。

文・石井誠(ライター)