2017.08.21
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約半世紀経っても色褪せぬ「原点」を体験せよ!

『マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン』

 8月11日より公開となった映画『スパイダーマン:ホームカミング』。これまでスパイダーマンの映画は、サム・ライミ監督による『スパイダーマン』シリーズとして3作、マーク・ウェブ監督による『アメイジング・スパイダーマン』シリーズとして2作が制作されています。この二つのシリーズはどちらも、登場するヒーローはスパイダーマンのみという、単独ヒーローものでした。
 しかし今回の『ホームカミング』は、数多のヒーローが存在するマーベル・シネマティックユニバース(以下、MCU)の世界観のもとに制作された作品となっています。
 今作のスパイダーマンは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、MCUでは初となるティーンエイジャーのヒーローとしてデビューを飾りました。それを受けての主演タイトルである本作『ホームカミング』では、この新しいスパイダーマンが掘り下げられることになります。
 トム・ホランドが演じるピーター・パーカーは、高校2年生。劇中の描写も、コミックス『アメイジング・スパイダーマン』初期の高校生活や人間関係を思い起こさせるものが多く、原点回帰の印象を強く受けます。
 そもそもコミックス『アメイジング・スパイダーマン』の初期において、スパイダーマンというヒーローは、どのようなキャラクターとして描かれてきたのでしょうか? そうしたスパイダーマンの原点を改めて知るのに最適な1冊となるのが、今回紹介する『マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン』です。

マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン(2017.07.28発売)

[ライター] スタン・リー
[アーティスト] スティーブ・ディッコ
[訳者] 小野耕世
[レーベル] MARVEL
本体3,980円+税/B5/P272
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有名ビランの出揃う初期11話

『マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン』は、スパイダーマンが最初に登場した『アメイジング・ファンタジー』#15と、その高い支持を受けてシリーズ化した単独誌『アメイジング・スパイダーマン』の#1から#10までの全11編が収録されています。
 本書の翻訳を担当するのは、日本にアメコミを広めた立役者、小野耕世氏です。年配のアメコミファンの方には、70年代に小野耕世氏が翻訳した『スパイダーマン』や『キャプテン・アメリカ』、『ファンタスティック・フォー』などがアメコミとの出会いだったという方も少なくないと思います。

『アメイジング・ファンタジー』#15は、スパイダーマンの誕生譚ということで、これまで幾度となく邦訳されてきましたが、そのすぐ後に続くストーリーは、意外なことにこれまで翻訳されていませんでした。
 しかし今回収録されている『アメイジング・スパイダーマン』#1~#10は、スパイダーマンとその世界設定が描かれた、スパイダーマンシリーズの物語の土台部分で、映画に登場するほどの有名ビランたちがずらりと顔を並べる、ファン必読の10編なのです。

 各話におけるビランの初登場回/登場映画は以下の通りです。

#2 バルチャーとティンカラー(ホームカミング)
#3 ドクター・オクトパス(スパイダーマン2)
#4 サンドマン(スパイダーマン3)
#6 リザード(アメイジング・スパイダーマン)
#9 エレクトロ(アメイジング・スパイダーマン2)

 このラインナップを見るだけでも、本書の重要性が見えてくるのではないでしょうか。

 中でもドクター・オクトパスは、自分の強さに慢心したスパイダーマンが初めて出会った強敵として描かれており、のちにオクトパスが『スーペリア・スパイダーマン』で負うことになる役目を思えば、その因縁の深さに改めて感慨を覚えずにはいられません。

 #1では2年ほど先んじた1960年にデビューし、当時高い人気を誇っていたファンタスティック・フォーとの共演も果たします。スパイダーマンと年齢の近いヒューマントーチとの間には、ちょっとしたライバル関係が生まれます。#5ではファンタスティック・フォーの宿敵、ドクター・ドゥームも登場しています。

等身大の悩みを抱えた「親愛なる隣人」

 本書では、現在であれば数号にわたって展開するような一連のストーリーが1話に圧縮されているにもかかわらず、その中では敵との戦いと、ピーターの私生活が同時に展開されます。
 家での叔母さんとの生活、学校での高校生活、ヒーロー活動という3つの世界それぞれで、ピーターはリアルな悩みを持つことになります。
 家では、家計を支えるため、なんとしてもお金を稼がなくてはと焦燥感にかられる。
 学校では、勉強はできるものの同級生から「本の虫」とからかわれ、スクールカーストの最底辺として耐え忍ぶ日々。
 そしてヒーローとしては、我が身を犠牲にして戦っているにもかかわらず、スパイダーマンにゆがんだ私怨を抱く新聞社社長ジェイムスンの、メディアを駆使したつるし上げによって、人々からの信用が得られない状況に置かれてしまいます。
 誰のために、何のために戦うのかと自問自答をしながらも「大いなる力には大いなる責任が伴う」というベンおじさんの言葉を信じ、正義のために戦うことを選ぶスパイダーマンの覚悟は、発表から半世紀近く経った作品とは思えないほど、鮮烈な印象を受けることでしょう。
 また、自分がスパイダーマンであることがバレないように行動しなければならないということも、ピーターの大きな悩みであり、このことが物語に一層のスリルを与えているのです。
 スパイダーマンは、宇宙人であるとか、大企業の息子であるというような特別な出自を持つ存在ではなく、その正体は、その辺にいそうなオタク系の苦学生です。当時の一般的な読者がどこか共感してしまう等身大のキャラクターであるからこそ、大きな支持を集められたのでしょう。

 ちなみに、『ホームカミング』の劇中に登場するトニー・スタークが制作したスパイダースーツは、アイアンマンスーツのようなハイテクの塊として描かれていますが、いくつかの機能は初期のコミックスで描かれたものを、現代的かつ説得力のある形へと進化させたものと言えるでしょう。パラシュートやスパイダーシグナル、ウィングスーツなどは、コミックの初期にすでに登場しています。これを描写を変えて登場させているところに原作への深いリスペクトを感じます。

作品の制作工程が見える原画に注目

 さらにもうひとつ『マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン』で注目して欲しいのが、巻末の付録です。
 ここにはスティーブ・ディッコの手で描かれた『アメイジング・ファンタジー』#15の原画が掲載されています。出版時には見えなくなっている修正液で消された絵やセリフの跡、スタン・リーの指示書きなど、リー&ディッコが作品を制作していくさまの一端がわかる、ファン必見の資料です。
 この当時、原画は紛失してしまうことがとても多く、この『アメイジング・ファンタジー』#15の原画も一度は紛失してしまったのですが、匿名の人物によって図書館に寄贈されました。そのあたりの経緯も含め、原画1枚1枚に解説がされています。

『スパイダーマン:ホームカミング』からスパイダーマンのファンになったという方はもちろん、「スパイダーマンの初期物語なんて、今さら説明されなくても知っているよ」という方にもきっと新たな発見がある、内容的にも資料的にも充実の一冊。ぜひ手にとって堪能してください!

文・石井誠(ライター)