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マーベルきっての美青年に転生したロキの真の狙いとは…?
『ロキ:エージェント・オブ・アスガルド』
ロキ:エージェント・オブ・アスガルド(2017.08.30発売)

[ライター] アル・エウィング
[アーティスト] リー・ガルベット
[訳者] 秋友克也
[レーベル] MARVEL
本体2,400円+税/B5/120P
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MCUでさらにキャラクターを掘り下げられたロキ
マーベル・コミックスの存在を一般に知らしめる大きなきっかけとなった実写映画シリーズ「マーベル・シネマティックユニバース(以下、MCU)」。映画シリーズの大ヒットは、原作であるマーベルコミックス自体にも大なり小なり影響を与えつつあると言えるでしょう。そうした流れの中で顕著な変化を遂げたキャラクターの1人がソーの弟である邪神ロキ。今回紹介するのは、そのロキが主人公として活躍する『ロキ:エージェント・オブ・アスガルド』です。
MCUにロキが初登場したのは、2011年公開の『マイティ・ソー』。映画がスタートする以前、コミックにおいてのロキは、マーベル・ユニバースにおけるビランの中でもDr.ドゥーム、マグニートー、レッド・スカルなどと並ぶ大物ビランの一人として、義兄ソーのような腕力は無くとも魔力に秀で、計略を持って人々を騙し、苦しめる老獪な邪神というイメージの強いキャラクターでした。外見年齢は中年~初老くらいでしょうか。
しかしMCUでは、ソーの弟役ということで年齢的にもビジュアル的にも若く設定されることとなり、当初ソー役でオーディションを受けたトム・ヒドルストンがロキ役を演じることになります。
イギリス出身の俳優トム・ヒドルストンは、名門ケンブリッジ大学を優秀な成績で卒業後、王立演劇学校で演技を学んだエリート中のエリートと言って良い経歴の持ち主。天性の品の良さが持ち味のひとつとも言える彼がロキを演じたことで、「邪神ロキ」というキャラクターの解釈に、新たな側面が開かれたことは間違いないでしょう。
飄々としながらもどこか愛嬌のある雰囲気、兄へのコンプレックスと愛情が半ばする言動、善悪の間で揺れ動くその立ち位置は、脇役ながらスクリーンの中でも大きな存在感を持ち、映画『アベンジャーズ』ではそのやられっぷりも相まって、一躍MCUの大人気キャラクターへと成長しました。
一方、原作コミックスにおけるロキは、2010年に展開されたクロスオーバー『シージ』における最終決戦で、崩壊するアスガルドを前に自らの行いを悔い、ソーを始めるとするヒーローたちのために自分の持つ魔石を使って協力するも、ボイドの攻撃によって死亡。その後、2011年1月に発売された『ソー』v1#617にて、これまでの記憶を失った状態でパリに住む孤児の少年に転生、キッド・ロキというキャラクターとして個人誌『ジャーニー・イントゥ・ミステリー』『ヤング・アベンジャーズ』などでその活躍が描かれていくことになります。
このように、ロキというキャラクターの設定は、MCUとコミックスで足並みを揃えたかのように、そのイメージの刷新がほぼ同時に行われていったのでした。
キッド・ロキから青年ロキへの成長。その裏に隠されたものとは?
本作『ロキ:エージェント・オブ・アスガルド』は、そうしたロキのイメージの変化の流れの中でリリースされた、ロキ初のオンゴーイングストーリーです。
転生によって邪神ロキとしての運命から逃れたキッド・ロキはソーと和解し、彼に保護されるものの、その後滅んだと思われていたかつてのロキの魂にその肉体を奪われてしまいます。そして、新生した若きヒーローチーム「ヤング・アベンジャーズ」を利用すべくチームへと参加(この経緯は既刊『ヤング・アベンジャーズ:スタイル>サブスタンス』で読むことができます)。
彼らと共に戦う中で、キッド・ロキは異次元から現れた邪悪な寄生生物「マザー」へ対抗するためにチームメイトであり、現実を改変する魔力を持つウィッカンに「自分の肉体を成長させて、歳相応の魔力を得る」ことを提案。その結果、幼い子供から成長した青年の姿を手に入れるのでした。その姿はまさに美青年とも言えるもので、MCUで新生したトム・ヒドルストンのロキを大きく意識していることが伺えます。もっとも、本作によればこの外見はワン・ダイレクションのハリー・スタイルズ似ということになっているようですが。
かつての邪悪な魂が復活し、新たな若い肉体を得たロキでしたが、転生したキッド・ロキに宿っていた無垢なる自分自身の魂を殺した罪の意識に苛まされ、さらに純粋なる心を持つヤング・アベンジャーズを利用しようとしたことに対する後悔の念が芽生え始め、ついには神話どおりの邪神=ビランとして生きるのではなく、新たな道を歩みたいと願うようになります。そしてかつての罪を帳消しにするべく、オーディンに代わりアスガルドを総べるオールマザーズのエージェントとなったのでした。
本作のストーリーは、いわゆる「スパイもの」仕立て。
ニューヨークにアパートを借りて、悠々自適の一人暮らしをしているロキが、オールマザーズからの指令が下るや否や、アベンジャーズマンションからフランスから世界の秘境まで、様々なところへ赴きミッションをこなすという筋書きとなっております。
ソーに憑いた呪いの毒の採取、ミッドガルドを放浪するアスガルド神ローレライや古き英雄シグルドを帰還させるなど、いくつもの試練に挑むロキ。嘘を見抜く能力を持つ人間の女性、ベリティの協力を得つつ任務をこなすロキですが、それらの任務の裏には大きな秘密があったのでした……。
こうして説明をすると、シンプルなお使いミッションものとも思える設定ですが、本作のシナリオ構成はひと筋縄ではいかない、非常に巧妙な作りとなっています。
オールマザーズの与えるミッションの本当の目的が明かされないまま話が進行していくのに加え、主人公であるロキ自身の魂胆も、これまでの彼を見てきた読者としては本当に信じてよいのかわからず、さらに嘘と狡知の神であるロキが自慢の口車を活かして出会う人々を騙しながら任務を遂行するため、「一体どれが真実で、何が真の目的なのか?」という物語上の謎かけに、俯瞰的に物語を眺めているはずの読者をも巻き込んでいくかようです。
またロキを始めとするアスガルドの神々は、まさしく「神」であることを思い起こさせるような、神話的壮大さを持った仕掛けもあり、そういう意味でもまさに「邪神ロキ」に翻弄されるような、奥行の深い物語と言えるでしょう。
そういったことを抜きにしても、頭の回転が速く、なんとも憎めない雰囲気を持つ青年ロキの、ユーモアにあふれたやりとりだけでも面白く、映画のトム・ヒドルストンが演じるロキを見てファンになった方にもお勧めの、絶対に楽しめる一冊です。
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