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荒廃した世界でウルヴァリンが見つけた希望とは……
『ウルヴァリン:オールドマン・ローガン』
ウルヴァリン:オールドマン・ローガン(2017.5.12発売)

[ライター] マーク・ミラー
[アーティスト] スティーブ・マクニーブン
[訳者] 秋友克也
[レーベル] MARVEL
本体2,980円+税/B5/P224
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ヒュー・ジャックマン最後のウルヴァリン『LOGAN/ローガン』
20世紀FOX社による『X-MEN』映画シリーズの最新作となる『LOGAN/ローガン』。本作は、2000年に公開されたシリーズ第1作『X-MEN』から17年間、9作品にわたってシリーズの顔としてウルヴァリン役を演じ続けてきたヒュー・ジャックマンが、「この作品をもってウルヴァリン役を引退する」と発表したこともあり、公開前から大きな注目を集めていました。
『LOGAN/ローガン』は、これまで続いてきたシリーズとは世界観が異なる独立した作品です。そのため、これまでのシリーズを観ていなくても十分に楽しめる構成になっています。
物語の舞台は2029年、ある事件によって、ミュータントが表舞台から姿を消したアメリカ。ローガンはすでに戦いから身を引き、老いて超能力のコントロールができなくなったチャールズ・エグゼビアの面倒を見ながら、リムジンの雇われ運転手として生活する日々を送っていました。しかしそんなある日、彼を「ウルヴァリン」だと知る女性から依頼が舞い込みます。それはローラという名の少女を、とある場所へ送り届けてほしいというものでした。
ヒーリングファクターが弱まり、体内のアダマンチウムに体を蝕まれ衰弱していくローガンと、心を閉ざした少女ローラ。ふたりの出会いはミュータントの未来に何をもたらすのでしょうか……。
X-MENのコミックファンならばご存知の通り、映画『LOGAN/ローガン』に登場するローラという少女は、原作コミックでウルヴァリンのクローンとして誕生したX-23(ローラ・キニー)がモデルとなっています。
知らずして生まれた自分の娘ともいえる存在と相対し、心を揺り動かされていくローガンの描写には、コミックのファンであれば頷くところも多いはずです。
R15指定によって暴力表現の枷を外し、観客を大人に限定したことで、キャラクターの描写もより重厚になった本作は、アメコミ映画にひとつの金字塔を打ち立てたと言っても過言ではないでしょう。
そして現在のアメコミ映画の隆盛を築く大きなきっかけになった『X-MEN』の第1作から看板俳優を務めてきた、ヒュー・ジャッマンによるウルヴァリンが今回で見納めかと思うと、大きな感慨を覚えずにはいられません。『X-MEN』に思い入れのあるアメコミファン、アメコミ映画ファンであれば、ぜひ鑑賞をお勧めしたい一作です。
ディストピアヒーローコミックの大傑作!
この映画『LOGAN/ローガン』の原案にあたる作品が、今回紹介する『ウルヴァリン:オールドマン・ローガン』です。
本作の舞台は、マーベル・ユニバースにおけるメインバースである「アース-616」ではなく、並行世界の「アース-807128」となっています。このパラレルワールドにおける未来を舞台に年老いたウルヴァリンを描くというのは、『LOGAN/ローガン』と共通した設定です。しかしストーリーはかなり異なっています。
「アース-807128」は、約50年前に行われたスーパービランによる総攻撃によって、ヒーローのほとんどが死に絶えてしまった世界。アメリカは有力なビランたちによって分割統治され、国全体が荒廃しています。
わずかに生き残ったヒーローたちも行方不明の中、ローガンはヒーローとしての過去を捨て、カルフォルニアの寒村で農場を持ち、妻子とともに慎ましく暮らしていました。しかしある日、アメリカ西海岸一帯を統治する「ハルク・ギャング」による理不尽な税の取り立てに遭い、ローガンは追いつめられます。来月までに金を用意しなければ一家皆殺しにされてしまう……絶望の淵に立たされたローガンの前に現れたのは、アベンジャーズ時代の旧友であるホークアイ。彼もまた、緑内障によって全盲となり、ヒーローとは程遠い生活を送っていました。そんなホークアイがローガンに持ちかけてきたのは、「あるもの」を東海岸の新首都ニューバビロニアまで運搬する「運び屋」の仕事でした。金が必要なローガンは、面倒事に巻き込まれても決して自分は戦わない、ということを条件に、ホークアイの話に乗ることを決意。家族のもとを離れ、ホークアイと二人でアメリカ横断の旅に出ることになります。
ヒーローがいなくなった世界という陰鬱な設定もさることながら、何よりも読者に衝撃を与えるのは、戦うことをやめ、悪党に殴られるがままのローガンの姿でしょう。ウルヴァリンというキャラクターの人気の源泉は、苦虫を噛み潰したような表情からは窺い知ることのできない優しさと純粋な心、そして彼が悪党に対して振るう圧倒的な暴力とその強さであったと思います。
しかし本作のローガンは、ある悲劇をきっかけにヒーローとしての心を壊されてしまっています。一体彼の身に何が起こったのか、それは旅の道程で明かされることになります。
そして脇役ではありますが、老いたホークアイの渋さは、彼の新たな魅力を映し出しています。また『スパイダーバース』で異彩を放ったスパイダービッチことアシュレイ・バートンのデビュー作であることも、押さえておきたいポイントです。
本作のライターは『キック・アス』や『シビル・ウォー』で知られるマーク・ミラー。彼の持ち味である、容赦のない残酷描写や、「ヒーローファン」の心を狙って刺すようなエグさは、本作でも最大限に発揮されています。それに加えて、骨太なストーリーであることも特徴であり、それが本作の魅力であると言えるでしょう。ロードムービーとしての構成も非常に上手く、道程で描かれる崩壊した世界の描写、次第に明かされる謎など、ストーリーテリングの妙は抜群です。
読んでいて心を締め付けられるような場面が多い作品ですが、それを乗り越えてでも、読むべき大傑作であることは間違いありません。
X-MENシリーズの持つ無限の可能性とその魅力
『LOGAN/ローガン』と『ウルヴァリン:オールドマン・ローガン』は、不死身の男ウルヴァリンの「老い」と、死ねなかった人生の重みを描くという根底のテーマは共通しています。実は本作には、それ以外のコミックからもインスパイアされたであろう箇所が垣間見れます。たとえば、ローガンとローラの逃走劇は、『X-フォース/ケーブル:メサイア・ウォー』や『X-MEN:セカンド・カミング』で描かれた、逃走を通じて絆を育んでいくケーブルとホープの過酷な旅を思い浮かべた方もいるかもしれません。また『X-MEN:スキズム』でも描かれた「子どもたちを戦いに巻き込みたくない」というローガンの一貫した信条は、映画でも変わることがありません。
こうして原案コミックと映画を両方見ると、改めてウルヴァリンというキャラクターの持つ魅力の深さに感嘆させられます。こうした作品による描き分けは、ひとつのシリーズやキャラクターを様々なクリエイターが描きつなぐことで歴史を築いてきたアメコミだからこそできることでもあり、アメコミ映画にまだまだ大きな可能性があるということを感じさせられました。『LOGAN/ローガン』と『ウルヴァリン:オールドマン・ローガン』は、映画ファン、アメコミファンのどちらにもオススメできる作品であることは間違いありません。
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