2017.10.24
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マーベル・ユニバースにおける「宇宙モノ」の集大成!

『インフィニティⅠ~Ⅲ』

 近年のマーベル・コミックスの大型クロスオーバーと言えば、『シビル・ウォー』『AVX:アベンジャーズ VS X-MEN』など、マーベル・ユニバースにおける社会問題を背景にしたヒーロー同士による対立が軸となっているものが続いた印象があります。どれも大きな反響のあった傑作ですが、とはいえ、やはりヒーローたちが協力して強大な敵に立ち向かうという図式こそがヒーローコミックの王道であり、醍醐味であることは間違いないでしょう。
 今回紹介する『インフィニティ』は、まさにそうした「ヒーローたちが信頼しあい、結束して戦う」という基本に立ち返った作品です。先の『シビル・ウォー』などで、社会的なテーマを持った重厚な物語を読者に提供してきたマーベル・コミックスが、今度は王道のヒーロー譚を、現代的なアプローチと壮大なスケールをもって見せていくことに挑戦した意欲的なタイトルだと言えるでしょう。
 メインライターを務めたジョナサン・ヒックマンは、この難しい試みに挑戦し見事に達成解決しました。いくつもの宇宙レベルの危機を壮大なスケールで描き、それらが徐々に地球に集約されていく展開を作りあげたのです。

インフィニティ Ⅰ(2017.06.30発売)

[ライター] ジョナサン・ヒックマン
[アーティスト] マイク・デオダート ステファノ・カセッリ ジム・チャン マルコ・ルディ マルコ・ケケィト
[訳者] 秋友克也
[レーベル] MARVEL
本体2,800円+税/B5/184P
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インフィニティ Ⅱ(2017.07.28発売)

[ライター] ジョナサン・ヒックマン
[アーティスト] マイク・デオダード ジェローム・オプーナ ダスティン・ウィーバー レイニル・ユー
[訳者] 秋友克也
[レーベル] MARVEL
本体3,200円+税/B5/232P
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インフィニティ Ⅲ(2017.08.30発売)

[ライター] ジョナサン・ヒックマン
[アーティスト] マイク・デオダード ジェローム・オプーナ ダスティン・ウィーバー レイニル・ユー ジム・チェン
[訳者] 秋友克也
[レーベル] MARVEL
本体3,300円+税/B5/240P
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『インフィニティ』に至る道のり

 本作の前日譚となるのが『アベンジャーズ:アベンジャーズ・ワールド』『アベンジャーズ:ラスト・ホワイト・イベント』『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』の3作品です。
 新生アベンジャーズの活躍を描く『アベンジャーズ・ワールド』と『ラスト・ホワイト・イベント』は、『インフィニティ』に登場する、生命を創世者「ビルダーズ」の先触れであるエクス・ニヒロとその妹アビスとの初接触、そしてアベンジャーズのメンバーの増強が描かれます。火星に降り立ったエクス・ニヒロとアビスは、生物の遺伝子情報を書き換える「創世爆弾(オリジン・ボム)」を地球に落とし、惑星環境の再構成を試みます。その後、宇宙に大いなる変革が起こる際、それに対応する力を持つ者を作り出すビルダーズのシステム「白い事象(ホワイト・イベント)」が発生。その結果、強大な力を持つ新たなヒーロー、スターブランドとナイトマスクが誕生することになります。
 一方、『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』で描かれるのは、多元宇宙のどこかで異常が発生したことによって次元間の間隔が歪み、同じ惑星同士が連鎖衝突する「インカージョン」の危機です。これに対応するのはヒーローたちの秘密結社イルミナティ。彼らは、異次元の地球を破壊するという非情の手段によって世界を守ろうとします。
 こうしてヒーローたちは、同時に2つの地球規模の危機と相対することになります。しかし、これらの事件はさらなる宇宙規模の危機への序章でしかなかったのです。

二つの宇宙的危機に加え、最強の敵が地球侵略に乗り出す!

 こうした流れを受けて幕を開けた『インフィニティ』では、『アベンジャーズ:アベンジャーズ・ワールド』において「創世爆弾」によって生まれた者たちから、宇宙へ向けシグナルが送信され、それをエクス・ニヒロとアビスを創りだしたビルダーズの本隊が受信。地球に向けて巨大な艦隊を動かし始めます。
創世種族ビルダーズの艦隊の侵攻は、クリー、スクラル、ブルード、シーアー、アナイアラスなど、これまで銀河で覇権を争ってきた列強種族にも甚大な被害を及ぼし、彼らは恩讐を超え再び銀河評議委員会を召集。そしてここに宇宙へと向かったアベンジャーズが加わり、宇宙規模の危機に対抗するため、大連合軍が結成されることになります。

 そんな最中、新たにもうひとつの脅威が地球に迫ります。それはアベンジャーズの留守を知ったかつての宿敵、狂えるタイタン人サノスによる地球侵攻でした。

 彼は失われたインフィニティ・ジェムをイルミナティが所持していたことを突き止め、その探索のため、自身の配下である5人の戦士ブラックオーダーを送りこんできたのです。そして自身もまた、別のある目的と、その目的に関する情報を持つブラックボルトを尋問するため、インヒューマンズの拠点であるNY上空のアティランへと降り立ったのでした。
 はるか深宇宙での「ビルダーズ艦隊との戦い」、地球での「インカージョン対策」と「サノス侵略」。『インフィニティ』ではこの3つの事件が同時進行していきます。
この銀河と地上での戦いに加え、個々のキャラクターの掘り下げもきっちり描かれていることにも注目です。
『AVX:アベンジャーズ VS X-MEN』にて、フェニックスフォースと一体化したネイモアが、ワカンダを大津波と共に襲った事件以来、確執が続く、ネイモアとブラックパンサーの関係。弟のマキシマスと共に何事かを企てるブラックボルトの動向。スマッシャーやキャノンボール、サンスポットなどアベンジャーズの新メンバーたちが絆を深めていく様子や、サノスに忠誠を誓うブラックオーダーたちの関係性など、ダイナミックな展開の中にも、個々人の群像劇が楽しめます。

壮大で重厚なスケール感で描かれる王道ヒーロー譚!

 前述した『シビル・ウォー』や『AVX:アベンジャーズ VS X-MEN』などの近年の大型クロスオーバーのストーリーは、テーマがシンプルなため、読者も内容がスムーズに理解できるものでした。
 比べて、『インフィニティ』は、構図の複雑さ、キャラクターの多さに加え、導入3冊、本編3冊というものすごいボリュームです。しかし、この長さがあるからこそ表現できる巨大なスケール感こそ、マーベルユニバースの、ひいてはアメリカンコミックスの醍醐味と言えるのではないでしょうか。
 そして何より、物語の核となっているのは、近年対立するの多かったヒーローたちが、宇宙規模の危機に対して、一丸となって事態に挑むという「信頼」と「結束」です。
 加えて、これまでたびたび地球を脅かし、ヒーローたちと敵対していた銀河列強種族たちまでもが団結するという展開は、非常に熱いものがあります。『インフィニティ』の主軸となるのは、冒頭に書いた「王道のヒーロー譚」。複雑な設定ながらも、するすると読めてしまうのは、その核の確かさゆえと言えるのではないでしょうか。
 クリー帝国とシーアー帝国、クリー帝国とスクラル帝国はかつて星間戦争を戦った過去を持ち、スクラル帝国はアナイアラスの侵略艦隊「アナイアレーション・ウェーブ」によって大きなダメージを受けたことがあるなど、それぞれが相容れられない敵対関係にありました。もちろんアベンジャーズをはじめとした地球のヒーローたちにとっても、かつて地球侵略を行った彼ら異星人たちは敵です。
 それが共通の目的のために手をとるのは、バトル漫画の王道でもありますが、本作がすごいのは、それがヒーローとビランが手を組むというレベルにとどまらず、国家として連合を組む形となっているところです。
 これはマーベルユニバースのコズミックものの中でも例を見ないほどの大連合であり、往年のマーベルファンであれば大きな感慨を抱いてしまうでしょう。
 そうしたマーベル版スペースオペラのフルコースが成立するのも、その敵となるビルダーズのすさまじい強さに説得力があればこそ。『アベンジャーズ:アベンジャーズ・ワールド』と『アベンジャーズ:ラスト・ホワイト・イベント』の2冊で、その力のすごさが描かれたビルダーズとの戦いだけでも、本作はひとつのクロスオーバー作品として成立したことでしょう。それなのに、さらにアベンジャーズの最大の敵であるサノスとの戦いまでも盛り込んだのは、マーベルユニバースにおけるコズミック系の集大成となる物語を作ろうとしたのだと考えて間違いないでしょう。
 

今後の展開における『インフィニティ』の重要性

 本作で描かれた、インヒューマンズによる「テリジェン・ボム」の発動が、世界中でインヒューマンの遺伝子を持つ者の能力を目覚めさせ、マーベルユニバースは大きく変化することになります。また、事態はいったんの解決をみたものの、インカージョンの脅威は残ったままです。こうした状況をひきずりつつ、物語は次なる大型クロスオーバーである『シークレット・ウォーズ』へと進んでいくことになります
 クロスオーバーによって生まれた状況が、次への布石となっていくのは、『シビル・ウォー』から『ワールド・ウォー・ハルク』『シークレット・インベージョン』『シージ』へと繋がっていった流れと同じです。今後のストーリーを把握する上で『インフィニティ』を含めた6作品は、重要な位置にあるのは間違いありません。
 また、本作で初めてサノスの配下として登場するブラックオーダーは、2018年公開の映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に登場することが、2017年夏のサンディエゴ・コミコンで発表されました。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では、もしかすると本作『インフィニティ』の要素がそれ以外にも取り入れられている可能性があります。そういう意味でも、マーベルファンならばしっかりと押さえておきたいシリーズではないでしょうか。

文・石井誠(ライター)