2018.05.28
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クライシス再び!

『インフィニット・クライシス』

インフィニット・クライシス(2017.12.27発売)

 [ライター] ジェフ・ジョーンズ
 [アーティスト] フィル・ヒメネス 他
 [訳者] 石川裕人 今井亮一
 [レーベル] DC
 本体3,500円+税/B5/288P
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今回は、2005~2006年にかけて発表され、大いに話題をさらったDCの大型クロスオーバー作品『インフィニット・クライシス』を紹介していきましょう。

本題に入る前にまずひとつ注意しておかなければならないことがあります。本作は1985~1986年の『クライシス・オン・インフィニット・アース(以下『COIE』)』の続編のため、ストーリーの根幹が『COIE』の結末と深くリンクしています。つまり『インフィニット・クライシス』から読み始めても、通常のクロスオーバー作品以上に理解が難しい部分があるのです。
作品を紹介にするにあたって『COIE』のネタバレも記述しなければ、その魅力を十分に伝えることは難しいでしょう。もし『COIE』を未読でネタバレを知りたくないという方は、このレビューは読まずに、まず『COIE』を読んでいただければと思います。

歴史的名作『クライシス・オン・インフィニット・アース』とは?


◆クライシス・オン・インフィニット・アース(2015.4.30発売)

 [ライター] マーブ・ウルフマン
 [アーティスト] ジョージ・ペレス
 [訳者] 石川裕人 他
 [レーベル] DC
 本体5,980円+税/B5/552P
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ではまず『COIE』の簡単な紹介をします。
『COIE』は、1985年にDC創立50周年記念作品として発表されました。DCからはそれまでの半世紀に、数え切れないほどの作品が生み出されてきましたが、その中には人気シリーズの並行世界ものも多く含まれていました。例えば、スーパーマンがロイス・レーンと結婚し、その後生まれた子供世代との共闘や、ヒーローがスーパーマン一人しかいない世界を描いたりと、スーパーマンだけとっても、様々なパラレルストーリーが作られていったのです。
そうした作品の数々は、やがてDCユニバースの中で「多元宇宙(マルチバース)」というくくりで捉えられるようになります。1985年の時点で、名前を与えられたパラレル世界「アース」の数は、正史となる「アース-1」を含め16個(後に「アース-D」が加わり17個に)。中にはマーベルコミックスのヒーローが存在する「クロスオーバー・アース」といった特殊な世界もあります。
これらのマルチバースは、お互いに干渉することなく、個々にストーリーを紡いでいるというのが、85年までの状況でした。
この状況を一変させたのが『COIE』なのです。
『COIE』の物語は、これらすべてのマルチバースを巻き込んでいきます。各アースを消滅させてしまう強大な敵アンチモニターを前に、各アースのヒーローやビランが結集。その中核となったのは「アース-1」のヒーロー達、「アース-2」の年老いたスーパーマン、ヒーローがたった一人しかいない「アース-プライム」のスーパーボーイ、そして善悪反転世界「アース-3」のレックス・ルーサーの息子、アレクサンダー(アレックス)・ルーサーJr.でした。
彼らの活躍によってアンチモニターの侵攻は食い止められたものの、多元宇宙は集約され、「アース-1」をベースとした新たなひとつの宇宙「ニューアース」として生まれ変わることになります。アンチモニターにとどめを刺すため、その拠点である反宇宙に残った「アース-2」のスーパーマンと「アース-プライム」のスーパーボーイ、「アース-3」のアレックス・ルーサーJr.は、故郷を失った者同士、「アース-2」のロイス・レーンを連れ、いずこかへと旅立ちました。

あのクライシスから20年後が舞台!

『インフィニティ・クライシス』は『COIE』から20年後の世界が舞台となっています。本作のスタート時のDCユニバースは、最悪に近い状況に置かれていました。
ヒーローたちの本質が揺るがされることになった『アイデンティティ・クライシス』事件を受け、ジャスティス・リーグへの不信を募らせたバットマンはリーグを離脱。メタヒューマンを監視する、人工知能搭載型スパイ衛星ブラザーアイの開発に着手するのですが、衛星を乗っ取ったマックスウェル・ロードによって悪用され、世界中のメタヒューマンを危機に陥れてしまいます。
さらにロードの洗脳能力によってスーパーマンは暴走。スーパーマンを止めるため、ワンダーウーマンはやむなくロードの殺害に至るのですが、この様子をブラザーアイによって放送されてしまったため、ワンダーウーマンは殺人者として世界中から糾弾を受ける事になります。
ジャスティス・リーグも、ある事件によって解散状態に追い込まれ、シャザムは命を落とし、宇宙では惑星ランとサナガーの間に戦争が勃発……。一方でビラン達は大同団結を果たし、宿敵であったヒーロー達を襲い始めます。
そんな混迷の中、かつての英雄達が帰ってきます。
それは、『COIE』で次元の彼方に消えたと思われていた「アース-2」のスーパーマン、「アース-プライム」のスーパーボーイ、アレックス・ルーサーJr.の3人でした。
20年間、次元の狭間からニューアースを見守っていた彼らが下した結論とは何なのか?ヒーロー達が輝きを失った現代に、古き良き時代のヒーロー達は何をもたらすのか?
それは新たなる「クライシス」の幕開けでした。

本作がもたらす大きな転換点

『COIE』は、膨大なキャラクターと世界観を「整理」した、今でいうリブートを行った一大イベントでした。今では当たり前の超大型クロスオーバーもこの作品が嚆矢と言えるでしょう。
登場キャラクター802人、100冊を超えるクロスオーバータイトルをまとめあげた『COIE』は、DCコミックス、ひいてはアメリカンコミックスの金字塔とも言える作品です。
そんな伝説的な作品の続編ということは、話題性はあるにしても、下手なものは作れないため、DCコミックスにとって大きな冒険であることは間違いありませんでした。実際、この作品の伏線は刊行の3年前から別タイトルで登場しており、DCコミックスがいかに慎重に準備をしていたかがうかがえます。

結論だけ書くなら『インフィニット・クライシス』は、DCユニバースにマルチバースを取り戻す大きな「分岐点」となりました。
20年前の作品を現代へと繋げる、その予想を超えた物語は、いくつもの議論を生み、多くのコミックスファンを沸かせたことで、大ヒットを記録します。
俊英ジェフ・ジョーンズの手によってそれまで伏線を張りめぐらされていた本作は、『COIE』だけでなく、『アイデンティティ・クライシス』『スーパーマン/バットマン』シリーズとも関わっているため、十分に楽しむには敷居が高いかもしれません。ですが、DCユニバースの壮大にして深遠な魅力を味わえる物語である事は確かです。

文・石井誠(ライター)