2017.08.07
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恋の呪縛を乗り越え、さらにパワーアップしたハーレイの大冒険!

『ハーレイ・クイン:ビッグ・トラブル』

 今やDCコミックスを代表するキャラクターのひとりにまで到達した感のあるビラネス(女性ビラン)、ハーレイ・クイン。今回は彼女を主役としたオンゴーイング・シリーズ『ハーレイ・クイン:ビッグ・トラブル』を紹介します。

ハーレイ・クイン:ビッグ・トラブル(2017.06.30発売)

[ライター] カール・ケセル
[アーティスト] テリー・ドッドソン
[訳者] 御代しおり
[レーベル] MARVEL
本体3,000円+税/B5/P192
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 昨今、映画のヒットによってその一般知名度を一気に上げた「時の人」ならぬ「時のアメコミキャラ」を挙げるなら、マーベルコミックスのデッドプールと並んでハーレイ・クインの名を欠かすことはできないでしょう。
 映画『スーサイド・スクワッド』にてマーゴット・ロビーが演じたハーレイ・クインは、そのビジュアルインパクトと存在感、そして前例のない「キュートで一途なバッドガール」とも言うべきキャラクター性が一般層にまで浸透しました。アメコミの新しいポップアイコンのひとりへと一気に昇格としたと言っても過言ではないでしょう。
 ハーレイ・クインは、もともと1992年に作られた『バットマン』のTVアニメシリーズオリジナルのゲストキャラクターでした。アニメでも本来は1回のみの登場のはずが、あまりの反響の高さから準レギュラーキャラクターとなり、その後コミックにもデビューしたという、「逆輸入」の経歴を持っています。
 そんな彼女のDCユニバース本格デビュー作となったのが、1999年に発行された『バットマン:ハーレイ・クイン』です。こちらのライターはTVアニメシリーズの脚本を手掛けたポール・ディニが担当しました。
 ハーレイの人気はとどまることを知らず、翌2000年にはついに単独のオンゴーイング・シリーズが開始。それが本作『ハーレイ・クイン:ビッグ・トラブル』です。

ついにジョーカーと決裂!

 ハーレイの手引きによって収監されていたアーカム・アサイラムからの脱獄に成功したジョーカーは、復帰祝いと称し、新しい遊園地「ハッピーランド」を舞台とした犯罪を企てます。二人のコンビが復活した記念の犯罪だと思いこんだハーレイは喜び、率先して計画を進めます。再会した親友ポイズン・アイビーに心配されるものの、どこ吹く風のハーレイ。しかしジョーカーの真の目的は、「二人の記念日」などではなく、バットマンを呼び寄せることでした。
さらにジョーカーは計画の進行と共に部下の心を掴んでいくハーレイに苛立ちを募らせ、決行の日、ついにハーレイに銃を向け、発砲。しかしジョーカーが撃ったハーレイは、ハーレイを心配したアイビーの変装でした。ハーレイはアイビーが撃たれたことに怒り、ジョーカーはバットマンを呼び寄せる計画を邪魔されたことに怒り、ついに二人の対決が始まります。

 ……と、そんな経緯から、ついにジョーカーに対して三行半を叩きつけ、独り立ちを決意したハーレイ。あれよあれよと自らのチームを作り上げ、トゥーフェイス、キャットウーマン、リドラーといった大物ビランたちとも対等以上に渡り合う大活躍を見せてくれます。特に親友ポイズン・アイビーやキャットウーマンを始めとしたDC悪女大集合パーティを開く#3は、ハーレイのファンならずとも必読の楽しさ。濃いキャラクターを持った彼女たちの中でも、ひときわの存在感を示してくれました。

ゴッサムシティを巻き込むハーレイの魅力

 これまで『バットマン』に登場するビラネスは、キャットウーマンがその代表格であるように、バットマンとの間に愛憎が入り交じる関係を築くセクシーで影のある美女、というキャラクター傾向が強かったように思います。
 しかし、ハーレイ・クインは「ジョーカーの恋人(相棒)」というポジションからスタートしているため、バットマンに対する個人的感情は非常にフラットです。あえて言えば「ミスターJの邪魔をするイヤな男」くらいの認識でしょうか。何より彼女は明るく、常にポジティブでイキイキとしており、影のある性格とは無縁です(その明るさはもしかすると、ある種の狂気所以のものであるかもしれませんが)。そして愛嬌のあるおバカな言動ながら、精神科医ハ―リーン・クインゼルとして積んできた知識や分析能力は一級品。「愚かにもジョーカーを熱愛する女道化師」という見たままの型には収まらない、奥行をもったキャラクター性は唯一無二のものです。
 ハーレイの想いの強さには犯罪界の道化王子ジョーカーも辟易として白旗をあげ、人間には心を許さないアイビーが、まるで姉のようにハーレイを心配し、あれこれと世話を焼く。ハーレイというキャラクターの行動に巻き込まれると、その特殊性ゆえ、他のキャラクターたちは、今までにないリアクションをとらざるを得ません。誰と組んでも相手の新たな一面を引き出せる「おいしい」キャラクターであるとも言えるでしょう。
 ただ本作までのハーレイ出演作品では、彼女はあくまでジョーカーの相棒という立場のため、他のキャラクターとはジョーカーを介しての接触が多く、直接関わることはあまりありませんでした。しかし、このオンゴーイング・シリーズではジョーカーのもとを離れて「独り立ち」することによって、ゴッサム・ビランを始めとしたDCユニバースの面々と次々に競演を果たし、その「おいしさ」を十二分に発揮していくこととなります。
 ハーレイ自身が率いる犯罪チーム「クインテッツ」とのファミリー的な関係性も独特で、明るく求心力のある親分肌を見せつつも、元精神分析医の能力を発揮して巧みに部下の心理をコントロールする様子には、脇役のトラブルガールからオンゴーイング・シリーズの主役へと一皮むけた強さが現れていました。
 本書で描かれた、明るいコメディエンヌの体裁をとりつつも、罪を罪とも思わず、また冷徹な計算によって他人の心理を左右するという多面性は、その後のハーレイというキャラクターの基礎となったと言えるでしょう。

 このように、本書でハーレイの魅力をさらに掘り下げたライターは、インカ―としても活躍したカール・ケセル。そしてアートを担当するのは、女性キャラクターを描くことに定評のあるテリー・ドッドソン。ハーレイの身体のラインが強調されるコスチュームと、しなやかで健康的なセクシーさを巧みに描きあげています。ページをめくるたびにハーレイの美しい肢体が伸びやかに躍動する、華やかなアートを心行くまで堪能できるでしょう。
 ハーレイ・クインの魅力に引きつけられているのならば、本書はストーリーの面でもアートの面でも、より彼女の魅力を知ることができる、必読の1冊であることは間違いありません。

文・石井誠(ライター)