2018.02.23
  • マーベルコミックス
  • 作品紹介

今こそ楽しめる力強い王道のヒーロー譚!

『フィアー・イットセルフ』

フィアー・イットセルフ(2017.08.30発売)

 [ライター] マット・フラクション
 [アーティスト] スチュアート・インモネン
 [訳者] 御代しおり
 [レーベル] MARVEL
 本体3,200円+税/B5/248P
 ⇒Amazonで買う
 ⇒書籍詳細

『ヒロイック・エイジ』期を締めくくるクロスオーバー!

今回は、2011年に展開されたマーベル・コミックスの大型クロスオーバー『フィアー・イットセルフ』を紹介します。
本作は時系列的に言うと、キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソーのBIG3が復活した『シージ』と、次世代のミュータントにとっての救世主と言われる少女・ホープを巡ってアベンジャーズとX-MENが争うことになる『AVX:アベンジャーズ VS X-MEN』の間に位置しています。
この時期に展開したのが、内戦やビランの台頭を経て、受難の時期を過ごしてきたヒーローたちが復権を遂げ、善悪の明解な世界観へと回帰した『ヒロイック・エイジ』と呼ばれるシリーズでした。いわば、ヒーローの活躍を思いっきり楽しめるシリーズと言えるでしょう。そして、その最後を締めくくりとなった大型クロスオーバーが、本作『フィアー・イットセルフ』です。

アスガルドの邪神が復活!

スティーブ・ロジャースが復活した『キャプテン・アメリカ:リボーン』における戦いで、父であるレッドスカルを亡くしたシン(シンシア・シュミット)。レッドスカルの意志を継いだ彼女は、父が第二次世界大戦中、秘密結社トゥーレ協会と共に、強大な力を持つ何者かを召喚するために造った施設へと赴きました。そこに隠されていた「スカディのハンマー」を手にしたシンは、その姿が変貌。彼女の精神は、アスガルドの邪神サーペントの娘であるスカディに支配されてしまいます。そして、彼女はハンマーに導かれるように海底深くに封印されていた自身の父親であり、アスガルドの主神オーディンの兄でもある、邪神サーペントを復活させます。
サーペントの復活を知ったオーディンは、これに徹底抗戦するべく、アスガルドの神々を連れ、本来アスガルドがあるべき次元へと帰還。ミッドガルド(地球)を犠牲にしようとする父のやり方に反発したソーですが、力及ばず、拘束されてしまいます。
サーペントの目的は、兄である自分を封印したオーディンとアスガルドへの復讐。人々の恐怖を糧として強さを増すサーペントは、彼に仕える戦士ワージーの軍団を復活させるべく、地上に7本のハンマーを召喚。それらに手を触れたハルク、シング、ジャガーノート、タイタニア、アブソービングマン、アットゥマ、グレイガーゴイルが、シン同様アスガルドの邪神に精神を乗っ取られ、世界各地で破壊の限りを尽くす事態となります。
未曾有の危機が世界を襲う中、アベンジャーズは、そしてソーはどのように戦うのか。また、地球を見捨ててまでオーディンが守りたかったものとは……。

シンプルで力強いメッセージ

大きな悲劇を乗り越えてヒーロー達が再び覚悟を抱き、立ち上がる姿を描いた本作。タイトルの「フィアー・イットセルフ」とは、直訳すると「“恐れ”そのもの」という意味を持っています。そのタイトルが意味する通り、本作のテーマは、絶望の中でわきあがる恐怖心にどのように打ち勝つかという、心の強さをいかに描くかということでしょう。
本作が発表されたのは2011年。止むことのないテロリズムや先行きの見えない経済的苦境、そして人間ではどうすることもできない自然災害への恐怖など、不安から起こる「恐怖心」に世界の多くの人々が侵食され、そしてそのことに気づき始めた時期だったように思います。
人々の恐怖心を糧に膨大な力を得ていくという邪神サーペントは、現実では見ることのできない不安や恐怖の象徴。その圧倒的な力に対し、キャプテン・アメリカやソーは、覚悟をもって果敢に立ち向かっていきます。
ヒーローコミックスにおいて、ヒーローが悪に立ち向かうのはある意味「当たり前」の行動として認識してしまいがちですが、本作では世界に蔓延する恐怖、そして衝撃の丁寧な描写を積み重ねることによって、その「当たり前」が持つ崇高さを見事に描きだしています。
そしてそれはヒーローだけでなく市井の人々もまた、同じように恐怖や不安と戦っているということをもきちんと描くことで、恐怖に打ち勝つクライマックスに繋がっていくのです。
『ヒロイック・エイジ』という、ヒーロー復権を描いたシリーズの締めくくりとして、恐怖を勇気と覚悟が打倒すというシンプルなテーマをあえて真正面に据えた本作は、不安を抱える世の中に対して「強い気持ちを持って生きていこう」というエールを送るかのような作品にしあがっています。それは、キャプテン・アメリカがクライマックスで語るあるセリフに込められていますので、ぜひ本書を読んで確認してみてください。

そうした大きなテーマも勿論味わい深いものですが、本作の肝はなんといっても“マイティ・ソー大戦”。サーペントの戦士であるワージーは、ハンマーを手にすることでアスガルドの神に近い力を得るわけですが、ハルクやシング、ジャガーノートと言ったタダでさえ強力なパワーを持つヒーローが、ソーの力をも得たら…という展開で、ダイナミックなアクションを盛り上げてくれます。また、物語の後半ではハンマーを手にするわけではないものの、他のヒーローたちもある意味“ソー化”する展開が待っています。そういった展開の中で、物語の中心となるのは、もちろん本家本元のソーその人。アスガルド出身の叔父がメインビランということで、その関係性にも大きくクローズアップしていきます。またカバーアートにもなっている、キャプテン・アメリカのシールドが破壊されるという衝撃の描写も含め、バトルものとしても大変見どころが多い作品となっています。

『フィアー・イットセルフ』の発表から、すでに6年が経過していますが、世界的に社会不安はますます大きくなっているようにも思えます。ですが、本作に込められた「恐怖を克服しよう」というメッセージの強さ、大切さには変わりはありません。ぜひ、本書を手元に置いて、不安を覚えた時には読み返し、ヒーロー達の姿から勇気を得て頂ければと思います。

文・石井誠(ライター)