2017.03.30
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総勢86人のスパイダーマンたちが時空を超えて集結、戦いを挑む!

『スパイダーバース』

「東映版スパイダーマン&レオパルドンがついにオフィシャルに登場!」と、アメリカ本国での発売直後から大きな話題となった、『スパイダーバース』をご紹介いたします!

スパイダーバース(2016.05.30発売)

[ライター] ダン・スロット
[アーティスト] オリビア・コワペル 他
[訳者] 秋友克也
[レーベル] MARVEL
本体2,200円+税/B5/P176
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『スパイダーバース』シリーズは、2014年11月からメインシリーズである『アメイジング・スパイダーマン』誌を中心に、いくつかのスパイダーマン関連誌とタイインして展開されたクロスオーバー作品です。

本作は、全3冊のシリーズの第1弾であり、メインのストーリーである『アメイジング・スパイダーマン』の#9~15の7話を収録しています(ちなみに、『アメイジング・スパイダーマン』誌は、1999年と2014年の2回にわたって号数がリセットされていて、現在の巻数は2度目のリセット後のものとなっています)。

本作をいきなり読み始めても話の大筋は理解できると思います。しかし過去の出来事がストーリー上では詳しく語られるわけではないので、本編のあらすじを紹介する前に、まずは『スパイダーバース』以前のスパイダーマン=ピーター・パーカーに何があったのかを簡単に紹介しておきます。これを理解しているだけで、かなり話が分かりやすくなるはずです。

読む前に知っておきたい『スパイダーバース』予備知識

『スパイダーバース』の原点となる物語は、今から15年前の2001年にスタートしています。そのストーリーでは、今作でも登場するエゼキエル・シムズとの出会いと、超絶なパワーを持つ新たな敵の存在が描かれます。

ピーターはある日、ビルの壁面で自分と同様の能力を持つエゼキエルと出会います。社会的に高い地位を持つ実業家にして、ピーターの良き理解者ともなるエゼキエルは、ピーターに新たな脅威が現れることを告げます。その脅威とは、動物と人間をつなぐ「トーテム」と呼ばれる人物が持つ生体エネルギーを吸い取るエナジーバンパイア「インヘリター」のモーランのことでした。モーランはクモのトーテムであるピーターを襲撃し、その脅威的な力によって、ピーターを瀕死の状態まで追い込み、ここからインヘリターとスパイダーマンの因縁の関係が始まります。ピーターが自身の血液を放射能に汚染させるという方法で一度はモーランを撃退しますが、その後、再度モーランはピーターを襲撃し、片目をえぐり、死の直前まで追い込みます。しかし、ここでピーターは新たなクモの能力に目覚め、またもモーランを撃退します(時系列的には、この直後にニューアベンジャーズが結成され、スパイダーマンもこれに参加。ここから『ニューアベンジャーズ:ブレイクアウト』に始まるニューアベンジャーズ・シリーズがスタートします)。

この後、ピーターに別の悲劇が襲いかかります。それは、スパイダーマンの宿敵であるドクター・オクトパスがもたらしたものでした。

ドクター・オクトパスは、自身の身体が衰弱し余命が少ない事を悟ったことから、自分とピーターの精神交換を試みます。その策略は成功し、ドクター・オクトパスはピーターの身体を奪い、自身の身体に精神が移ったピーターを殺害します。ピーターの身体に入ったオクトパスは、彼の死に際に、ピーターのヒーローとしての本質と背負っていた責任の重さを知ることになります。その結果、ピーターの意思を継いでスパイダーマンとして行動することを決意し、スーペリア・スパイダーマンとして活躍します(詳細は小社刊『スーペリア・スパイダーマン:ワースト・エネミー』をお読みください! ちなみに『エイジ・オブ・ウルトロン コンパニオン』に登場するスパイダーマンも、このスーペリア・スパイダーマンです)
最終的に、ヒーロー活動を通してピーターの気高さを知ったドクター・オクトパスは、身体の奥底にまだ存在していたピーターの精神に身体を返還することになり、ピーター・パーカーは晴れてスパイダーマンとして復帰します。

そんなピーターの前に、シルクという女性が現れます。スパイダーマンと同じ能力を持っている彼女は、かつてピーターにインヘリターの襲来を知らせたエゼキエルによって、インヘリターズに見つからないように隔離され、その能力を高める訓練を受けていました。スパイダーマンとして再び活動し始めたピーターは、シルクと行動を共にする道を選びます。

こうした流れを経て、今回の『スパイダーバース』はスタートすることになります。

スパイダーマン VS インヘリターズ!

前置きが長くなりましたが、ここからようやく『スパイダーバース』のあらすじを紹介していきましょう。

ある朝、奇妙な胸騒ぎを感じたシルクがピーターのもとを訪れます。その胸騒ぎの原因は分からないまま、二人はニューヨークの街にパトロールに出て、悪人を捕らえようとする二人。しかしその目の前に、並行世界のスパイダーマンたちが突然、姿を現し、ピーターに新たな脅威が現れたことを告げます。

ピーターは、モーランが再び捕食活動を開始したこと、そしてモーランの一族であるインヘリターズが、並行世界のスパイダーマンたちの生体エネルギーを狙い、次元を超えて狩りをしていることを知ることになります。

自分たちを食料として狙うインヘリターズに対抗するため、並行世界のスパイダーマンたちは団結し、ともに戦う仲間を集めていたのでした。そして、かつてモーランを倒したことがあるアース616(メインのマーベルユニバース)のピーターが、この戦いの重要な存在であると聞かされます。

しかし、スパイダーマンたちも一枚岩ではありません。先述したスーペリア・スパイダーマン(ピーターに体を返す前の「過去」の彼が、現在にタイムスリップしてきている)が、チームの主導権は自分が握るべきと主張したのです。アース616のピーターはスーペリアとの戦いに勝つことで、リーダーの座を勝ち取ります。

その後、スパイダーマンたちの勝利の鍵は、自分たちの中にいる「サイオン」、「アザー」、「ブライド」と呼ばれる3人のスパイダーマンをインヘリターズから守ることだと判明します。スパイダーマンたちは、安全地帯で仲間を守るチーム、並行世界で仲間を集めるチーム、インヘリターズの本拠地を偵察するチームに分かれ、行動を開始します。

特撮、アニメ版のスパイダーマンも登場!

本作の見所がどこかと聞かれれば、やはり多元宇宙から集結するスパイダーマンたちでしょう。その総数は86人! 

アース616の別世界のキャラクターであるアルティメット・スパイダーマン、スパイダーマン2099、スパイダーガール、スパイダーハムといった面々に加え、スーペリア・スパイダーマン、ピーターのクローンのベン・ライリー、コズミックパワーを得たスパイダーマンなど、今までマーベルコミックスを読んで来たファンが思わず喜んでしまうようなスパイダーマンが集結しています。

スパイダーマンはコミックス以外からも登場します。数々のアニメ版スパイダーマン(1967年に放送された元祖アニメ版のスパイダーマンから、現在日本でも放送中の『アルティメット・スパイダーマン/ウェブ・ウォーリアーズ』のスパイダーマンも登場)に加え、日本からは、スパイダーマンJ(コミックボンボンで連載されていた作品)、東映特撮版のスパイダーマンも登場。さらに、スパイダーウーマン、シルク、スパイダーグウェン(『スパイダーバース』で初登場し、人気を博したことによって、その後個人誌を獲得)などの、女性スパイダーたちが華を沿え、スパイダーマンの百花繚乱とも言える状態となっています。

平行世界の同じキャラクターが集合するという手法は、マーベルコミックスでもこれまで何度か使われているもので、デッドプール同士が殺し合う『デッドプール・キルズ・デッドプール』(『デッドプール・キラストレイテッド/デッドプール・キルズ・デッドプール』収録。レビュー記事はこちら)もそのひとつです。

ですので、本書が話題となった最大の理由は、同一キャラクターが集合するというところというよりは、登場キャラクター数の多さがもたらす、スケールの大きさだと言えるかもしれません。映画・アニメ・特撮と幾多のバリエーションが存在するスパイダーマンですが、同一キャラクターのみの登場でこのスケールの戦いを展開できるのは、歴史の長いバットマン、スーパーマンクラスのキャラクターでなければ無理でしょう。

より物語を楽しみたい方には、前日譚とサイドストーリー集も!

ただし、そうした多数の同一キャラクターが登場するマルチバースクロスオーバーで、かつ、きちんと正史のラインに組み込むわけですから、このストーリーを構築したライターのダン・スロットはかなりの離れ業をやってのけたわけです。

本作では、世界観、絵柄がバラバラのキャラクターをあえてそのままで(たとえば、スパイダーマンJはモノクロのまま、アニメのキャラクターはアニメ塗り)登場させ、「ゴッタ煮」感を強く出しています。さまざまなタッチでの色塗りが可能なデジタル彩色が普及した現在だからこそ可能になった作品だとも言えるでしょう。

多数の平行世界が描かれることによるストーリーの膨らみもポイントです。そもそも平行世界が描かれる理由は、「もしも、●●が××だったら」という「ifの世界」を読者が知りたいからです。本書では「ピーターとメリー・ジェーンの娘がスパイダーマンの活動を継いだら」というifから生まれたスパイダーガール、「もしも、ピーターではなくグウェンがクモに噛まれていたら」というスパイダーグウェンのような「本来の世界では存在しなかった」人物が登場します。

こうした「ifの世界」のキャラクターが交錯することは「スパイダーマンの総決算」として本書の内容に厚みを持たせることに成功していると思います。

本作は魅力的な女性陣の活躍も印象的です。物語の中心となる新キャラクターのシルク、ピーターとメリー・ジェーンの娘であるメイ・パーカー、スパイダーマンのパワーを得たグウェン・ステイシーことスパイダーグウェン、スパイダーウーマンのジェシカ・ドリュー、スパイダーガールのアーニャ・コラソン。本作が男臭い話にならないよう、絶妙な存在感を放っています。

スパイダーバースの物語は本書『スパイダーバース』で大筋は味わうことができますが、前日譚『エッジ・オブ・スパイダーバース』とサイドストーリー集『ワールド・オブ・スパイダーバース』の2冊と合わせれば、この壮大なマルチバースクロスオーバーをより楽しむことができます!

文・石井誠(ライター)

関連リンク
『エッジ・オブ・スパイダーバース』と『ワールド・オブ・スパイダーバース』の紹介記事はこちら