2017.03.31
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アレックス・ロスの超絶アートとDCコミックス愛が炸裂!

『ジャスティス Vol.1』『ジャスティス Vol.2』

ジャスティス Vol.1(2016.12.28発売)

[ライター] ジム・クルーガー 他
[アーティスト] アレックス・ロス 他
[訳者]  秋友克也
[レーベル] DC
本体3,200円+税/B5/P216
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⇒書籍詳細ページ

ジャスティス Vol.2(2016.11.30発売)

[ライター] ジム・クルーガー 他
[アーティスト] アレックス・ロス 他
[訳者]  秋友克也
[レーベル] DC
本体3,400円+税/B5/P280
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圧倒的な画力とリアルな絵画的な表現によって、『キングダム・カム』『マーヴルズ』といった伝説的名作を手がけ、コミックアート界に絶対的な地位を築いたアレックス・ロス。
彼の手がける作品は、キャラクターがその世界で息づき生活していることがありありと伝わってくるような、体温のあるリアリティが特徴的です。
これらのアートは、ひとつひとつのシーンごとに、モデルとなる人物の写真を撮り、光の当たり具合までも研究し尽くした、ロス特有の緻密な技法で描かれています。実際のモデルを使いながらも平板なリアリズムに陥ることなく、実に活き活きとした表情で立ち振る舞うキャラクター、それに写実性とドラマ性を兼ね備えた色使いと描写が加わることで、虚構を越えた世界観を作り出しているのです。

しかし当然のことながら、このような手法をとるロスのアート制作には、他のアーティストに比べて大きな手間がかかるため、どうしても寡作になってしまいます。その結果、アレックス・ロスがコミックス本編のアートを手掛けることはなかなか無いのも事実。
そんな数少ないアレックス・ロス作品の中で、最大級のボリュームをもって描かれたのが本書『ジャスティス』なのです。
この作品制作を可能としたのは、ペンシラーにダグ・ブレイスウェイト、共同原作にジム・クルーガーを迎えたチーム編成です。アレックス・ロスの担当は共同原作とカラーリングですが、ダグ・ブレイスウェイトの高い画力、構成力が非常にマッチしており、これまでのロス作品に勝るとも劣らない超絶クオリティを生みだしています。
「ジャスティス(正義)」という直球なタイトルは、企画段階では『VS.』というタイトルでしたが、本書はその名の通り、スーパーヒーロー連合とスーパービラン連合の全面対決を通して「正義」の在り方を問う、アレックス・ロスのDCコミックスへの、ひいてはスーパーヒーローコミックへの愛情が結晶化したかのような一冊と言えるでしょう。

改心したスーパービランたちに追いつめられるジャスティス・リーグ!

物語は、スーパービランたちが繰り返し見続けている、ある「悪夢」から始まります。
地球滅亡の日、炎に包まれた世界でなすすべもなく倒れるジャスティス・リーグ・オブ・アメリカの面々。
世界が破滅してしまっては、当然ながらビランたちの生きる場所も無くなってしまいます。そんな事態に陥るまで、ジャスティス・リーグは一体何をしていたのか? この悪夢は現実のものになると考え、怒りに駆られたビランたちは、レックス・ルーサーの号令の元、リージョン・オブ・ドゥームを結成。ヒーローたちに代わって人々をより善き世界に導くため、行動を起こし始めました。
ポイズン・アイビーによる砂漠の緑地化など、今まで犯罪に使ってきた自らの能力を、人類の救済に向けるビランたち。そしてルーサーを中心としたビランたちは、「ジャスティス・リーグの面々は、十分な能力を持ちながらもそれを使ってこなかったことで、格差と貧困を肯定し続けてきたのだ」という告発を全世界に向けて行ったのです。
人々の心がジャスティス・リーグから離れる中、ビラン達は、各ヒーローの弱点をついた攻撃を仕掛け、彼らは追い詰められていきます。そして苦境の中、ヒーロー達はビランの背後にある人物がいることに気づきます。黒幕の真の目的とは何なのか? 彼らはその謎を解き、巻き返しをはかるべく行動を開始します。

正義vs.正義

この物語は『NEW52』シリーズなどDCの中心的な世界観とは異なる、本書独自の世界観で展開されています。
基調となっているのはアレックス・ロスが一番思い入れのあるシルバーエイジのデザインと設定ですが、端々に新たな設定が取り込まれていますし、物語やキャラクターの持つテーマ性は現代的なものとなっています。
またビランたちは、いつものように悪事をなそうとせず、世界を良くするために行動しようとしています。こうしたビランの「正義」に対し、傷を負いながらも勇気を奮い起こし、自分の信じてきた「正義」をもって抗しようとするヒーローたちの姿は、読む者に正義とは何なのかという問いを呼び起こすことでしょう。
またこうした大作クロスオーバーならではの、各キャラクターの異なる立場や心情の描写も奥深く、アレックス・ロスの美しい絵と相まって、一大叙事詩と呼べるようなスケール感のある物語に仕上がっています。

重厚なストーリーや絵もさることながら、それ以外にも、スーパービラン連合にハブられてしまったジョーカーや、美麗なアートで描かれるプラスチックマンとエロンゲイテッドマンの伸び人間対決(?)など、細部にネタが仕込まれており、読むたびに新たな発見があることは間違いありません。

多数のキャラクター、複雑かつ重厚な物語……と、こう説明すると、DCコミックスに対する深い知識が必要な作品と感じられるかもしれません。しかし読んでみるとまったくそんなことはありません。読みやすさは抜群ですし、むしろこの作品から読み始めても問題なく楽しめる王道の面白さで、ヒーローコミックの入り口としてもオススメできる一冊です。
何よりアメコミファンならずとも一度は触れておきたいアレックス・ロスのアートを、長編で思う存分堪能できるのです。1コマ1コマを額に入れて飾りたいくらいのクオリティのアートが、めくってもめくっても続いていく感動は計り知れません。ぜひアレックス・ロスが心血を注いで制作した、この記念碑的な作品を読んでいただきたいと思います。

文・石井誠(ライター)