2017.03.30
  • マーベルコミックス
  • 作品紹介

『スパイダーバース』がさらに面白くなる前日譚&サイドストーリー集!

『エッジ・オブ・スパイダーバース』『ワールド・オブ・スパイダーバース』

総勢86人のスパイダーメンが時空を超えて戦う話題作『スパイダーバース』の前日譚にあたる『エッジ・オブ・スパイダーバース』と、サブストーリー集『ワールド・オブ・スパイダーバース』をまとめてご紹介いたします!

関連リンク
『スパイダーバース』の紹介記事はこちら

エッジ・オブ・スパイダーバース(2016.06.30発売)

[ライター] ダン・スロット他
[アーティスト] ジュゼッペ・カムンコリ 他
[訳者]  秋友克也
[レーベル] MARVEL
本体2,750円+税/B5/P256
⇒Amazonで買う
⇒書籍詳細ページ

アメコミの大型クロスオーバー作品では、物語の主軸を描いた本編の他に、「タイイン」と呼ばれるサブストーリーも描かれます。そこでは「どうして本編の事件が起こったのか?」という前日譚が取り上げられることが多いです。

『スパイダーバース』の本編では、主人公であるアース-616のピーター・パーカーがスパイダー大戦に巻き込まれるところから始まるので、前日譚は重要な意味を持つことになります。

それぞれのスパイダーマンたちが、各ユニバースにおいて、どんな状況でインヘリターズの襲撃に遭い、この戦いに参加することになったのか――それを紐解くことによって、『スパイダーバース』の壮大さが理解できるわけです。

『エッジ・オブ・スパイダーバース』は、いくつもの並行世界を舞台にした短編作品のオムニバス集となっています。今回はストーリーの重要度が高いものをチョイスして紹介します。

本書の6つの物語を紐解くと、『スパイダーバース』では明かされていなかった、6つの疑問について描かれていることがわかります。それぞれのストーリーを紹介していきましょう。

本編で描かれなかった6つの疑問

①スーペリア・スパイダーマンによる軍団結成
本書で最も多くのページが割かれているのが、メインストーリーでも重要な役割を担ったドクター・オクトパスの精神が宿るスーペリア・スパイダーマンの戦いです。時間エネルギーの爆発によって、2099年の未来に飛ばされてしまったスーペリア・スパイダーマンは、未来の技術を駆使して過去に戻るための装置を完成させます。しかし、その装置を使用して辿り着いたのは、別の並行世界のスパイダーマンたちが殺された世界でした。この奇妙な状況に疑問を抱いたスーペリア・スパイダーマンは、スパイダーマンを狙う者の存在に気付き、それに対抗するためのスパイダーマンによる対抗組織を作り上げるべく、マルチバースを奔走します。スーペリア・スパイダーマンの仲間集めとそれぞれのユニバースのスパイダーマンの戦いがつながり、スパイダー軍団結成の経緯が語られていくことになります。
ここでは、スパイダーマン・ノワール、スパイダーマン・インディア、アサシン・スパイダーマンなど、『スパイダーバース』でも登場したキャラクターの前日譚も語られています。

②カーンの過去
このスーペリア・スパイダーマンの活躍と同時に描かれるのが、異端のインヘリターズであるカーンの過去です。『スパイダーバース』本編で重要な存在であるカーンが、どういった経緯でマスクを身につける事になったのかが描かれます。

③スパイダーグウェン
ピーター・パーカーではなく、グウェン・ステイシーがクモに噛まれて能力を得て、スパイダーウーマンとして戦うという読み切り作品です。ミッドタウン高校に通う女子高生であり、メリージェーン率いるバンド「メリー・ジェーンズ」のドラマーとして活動するグウェンが、夜はスパイダーウーマンとして行動する姿が描かれ、この新キャラを紹介する「パイロット版」的な要素もあります。ちなみに『スパイダーバース』で人気を得たスパイダーグウェンは個人誌を獲得するに至りました。

④スパイダーマン2099
未来のスパイダーマンことスパイダーマン2099のエピソードは、複雑な構成となっています。別ユニバースにいる3人のスパイダーマン2099を描いた物語はマルチバースならではの展開をする一編です。敵味方ともに時空を超えられるという設定を生かした複雑な構成が見所です。

⑤メイディ・パーカー
アース982のピーター・パーカーとメリージェーンの娘、メイディ・パーカー=スパイダーガールの物語。メイディがどんな過酷な状況を乗り越え、幼い弟を抱えてスパイダー軍団と共に行動することになったのかが描かれます。

⑥アース-616のピーター・パーカー
こうした並行世界のスパイダーマンが危機に陥っていた時に、インヘリターズとの戦いに巻き込まれる前のアース-616のピーター・パーカーが、どんな状況にあったのかも描かます。
このときピーターは、スーペリア・スパイダーマンが設立したパーカー・インダストリーズという会社を受け継ぎ、会社の社長として活動していました。新たなパートナーであるシルクとのやり取り、新たなMs.マーベルとしてデビューしたばかりのムスリム系ティーンエイジャーにして、ヒーローオタクという設定のカマラ・カーンとのチームアップなど、『スパイダーバース』とは直接関係のない物語ながら、616のピーターの現状がわかる、『スパイダーバース』から読み始めた読者にとって、導入的役割を果たしているパートだと言えるでしょう。

サブキャラクターを深堀りする短編の数々

この大きな6つの流れの他には、<アーマー型コスチュームを着たアース-31411の「ザ・スパイダーマン」の物語>、<クモに変貌していくパットン・パーネルとそれに巻き込まれるヒロインのサラジェーンの怪奇譚>、<『スパイダーバース』本編で重要な役割を果たす、アース-833のスパイダーUKの前日譚>、<アース-14152の少女ペニ・パーカーが乗り込むパワードスーツ、スパ//ダーの活躍>など、さまざまな物語が収録されています。

本書を読んでから『スパイダーバース』を読み直せば、本編を読んだだけではわからなかったいくつかの疑問が解き明かされ、シリーズ全体の理解を深めることができるはずです。『スパイダーバース』を楽しみ尽くすためにも、読んでおくべき1冊なのは間違いありません。

『ワールド・オブ・スパイダーバース』(2016.07.30発売)

[ライター] ダン・スロット 他
[アーティスト] ウンベルト・ラモス 他
[訳者] 秋友克也
[レーベル] MARVEL
本体3,400円+税/B5/P360
⇒Amazonで買う
⇒書籍詳細ページ

『エッジ・オブ・スパイダーバース』のボリュームが本編『スパイダーバース』の1.5倍くらいだったのに対し本作はなんと2倍以上!バラエティに富んだ物語が一挙に収録されています。

バラエティ豊かすぎる作品の数々!

本作は、『スパイダーバース』本編でアース-616のピーター・パーカーが事件に巻き込まれてから後の話が主に描かれており、大きく4つの物語で構成されています。

1:スパイダーバース/スパイダーバース・チームアップ
『スパイダーバース』と『エッジ・オブ・スパイダーバース』で描かれなかった、マルチバースのスパイダーマンたちの物語です。『エッジ~』でも描かれなかったキャラクターが多数登場します。新聞漫画版スパイダーマンや、あのカプコンの格闘ゲーム版スパイダーマンが登場する数ページの掌編から、レディ・スパイダー、スパイダーパンクの短編、スパイダーハムとオールドマン・スパイダーがベン・ライリーを勧誘しに行くチームアップものなど、様々なサイドストーリーが楽しめます。

2:スカーレット・スパイダーズ
『スパイダーバース』本編で、インヘリターズがクローン技術によって、いくら倒しても復活できることを知った、3人のスパイダーマンのクローン(ベン・ライリー、スカーレット・スパイダー、ブラックウィドウ)の戦いを描く物語。
彼らはインヘリターズのクローン製造の拠点に潜入しますが、そこはアイアンマンやヒューマントーチがインヘリターズの手下となっている世界でした。目的達成のためなら非情な行動も辞さないスカーレット・スパイダーとブラックウィドウ、そして実直にヒーロー的な行動を取り続けるベン・ライリーの3人は、施設中枢に辿り着きます。そこには、インヘリターズのクローン化を担うジェニスが待ち受けていました。スパイダー大戦の行く末の鍵を握る、3人の戦いの詳細がここで語られます。

3:スパイダーマン2099
スパイダーマン2099、レディ・スパイダー、シックス・アームド・スパイダーマンの物語。スーペリア・スパイダーマンが殺害したインヘリターズの長男デイモスの遺体を分析するためには未来のテクノロジーが必要だと判断した3人は、2099年へと旅立ちますが、クローンで復活したデイモスは3人を追って未来の世界に到達します。デイモスの猛追によって未来世界を後にすることになった彼らは、安全地帯となっていたアース-13に戻りますが、スパイダーアーミーはインヘリターズによる襲撃で壊滅的な被害を受けていたのでした。しかし、、そこで破壊されたレオパルドンを発見し、一縷の望みをかけて、彼らは未来の技術によってレオパルドンの修理を試みます。

4:スパイダーウーマン
スパイダーウーマンとシルクの活躍が描かれます。自分が、インヘリターズが「ブライド」と呼ぶ存在であることを知ったシルクは、彼らを誘き出すために別の次元に移動。それを追ったスパイダーウーマンとスパイダーマン・ノワールですが、インヘリターズのブリックスとボーラに見つかり、スパイダーマン・ノワールは重傷を負い、スパイダーウーマンとシルクはノワールを助けるべく彼の元いた世界へと移動します。その後、スパイダーウーマンは敵の本拠地であるルームワールドで諜報活動をするようピーターから依頼され、彼女は単身ルームワールドに向かいます。一方、シルクは独断で単独行動を開始、核戦争で崩壊したアース-3145へと辿りつきます。このストーリーでは、戦いの趨勢に大きく関わりを持つスパイダーウーマンとシルクという二人の女性キャラクターの活躍が語られていきます。そして、最後にはスパイダーウーマンの視点から描かれる、『スパイダーバース』の後日談も収録されているので、本シリーズの真のラストシーンを知ることができます。

本シリーズをより深く楽しむには、『エッジ・オブ・スパイダーバース』と『ワールド・オブ・スパイダーバース』を読んだ後、再度『スパイダーバース』本編を読むことをオススメします。別働隊の動きを頭に入れた上で本編を読み返せば、物語を俯瞰でき、より理解も深まるはずです。

『スパイダーバース』は、「さまざまな次元のスパイダーマンが一同に集結!」というキャッチーな掴みと、この作品からアメコミに触れる人にとってもハードルは決して高くない物語となっています。しかし読み込んでみると、そこにはアメコミ特有の奥深い世界観が描かれていて、それを深堀していく楽しみも用意されているのです。

文・石井誠(ライター)